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久留米大病院

採用情報

腫瘍センター

脳腫瘍

はじめに

脳腫瘍といっても皆さんはあまりなじみがないと思います。もっとも正確性の高い調査として報告されている熊本県のデーターでは脳腫瘍は1年間に10万人あたり16人ほどに発生すると言われています。熊本県は隣の県ですので筑後地方、福岡県ではだいたい同じ発生率と考えられます。それほど多くないと思われるかもしれませんがご自分が発症すればやはり大変なことです。脳腫瘍と一口で言っても悪性のもは30%ほどです。従っておよそ70%のものは良性ですので、うまくおつきあいできればその腫瘍で命を失うことはほとんどないと言っていいと思います。脳の手術は誰でもいやでしょうが、腫瘍が小さいうちに簡単な手術で終われば安全に終わりますし、良性の腫瘍と共存できるように無理をせずなるべく安全な手術で天寿を全うすることができるように考えてゆくことも重要です。また不幸にして悪性の脳腫瘍であっても久留米大学脳神経外科では治療を行いながら患者さんとともに戦ってゆくようにしています。
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診断

脳腫瘍の診断はやはり脳のMRIが基本です。MRIは磁力を使って脳の微細な構造をきれいに映し出してくれますので、現在のところ人体への悪影響はほとんどありませんし小さな病変もよくわかります。また同時に脳の血管の検査も行うことができます。唯一の欠点としては狭いトンネルのようなところで20−30分じっとしておかなければなりませんので閉所恐怖症の方や小さな子供さんの検査は難しいところがあります。
脳腫瘍の診断のためにはその他に、数分で撮影できるCT検査、がんの検査に用いられるPET検査、腫瘍を栄養する血管の状態を調べる脳血管検査(アンギオ)などがあります。血液検査はごく一部の脳腫瘍の診断に用いられるだけですが、ホルモンを作り出す脳腫瘍の検査には有効です。
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脳腫瘍の種類

1.グリオーマ

これは本当の意味で脳の中から発生します。脳の中には神経細胞だけではなく神経細胞を取り巻いて守っている“グリア”細胞と言う細胞が豊富に存在していますがこのグリア細胞がいわゆる“がん化”したものと言えます。このグリオーマには世界保健機構WHOが良性から悪性までグレード1から4まで4段階に分けています(グレード1が良性4が最も悪性です)。グリオーマの中ではグレード4(神経膠芽腫)が最も多く約半数を占め(図1)、グレード3が約20%をしめています。この腫瘍は脳の中から発生しますので神経細胞の間に入り込み増大します。そのため発生した部位の神経機能が障害されてゆきますので、麻痺、言語障害、意識障害などが少しずつ進行してゆきます。またけいれんで発症することもあります。
 
 図−1 グリオーマグレード4(神経膠芽腫)

 

2.悪性リンパ腫

これもグリオーマと同じく脳の中から発生します。悪性リンパ腫と言う名前は血液系の“がん”として有名ですが脳の中にも発生します。高齢者や免疫機能の低下した患者さんに発生し易いと言われており高齢化に伴い患者さんの数は増加しています。血液細胞の“がん”にはいくつかの有効なお薬がありますが、残念ながらこれらの脳のリンパ腫には効果が少なく別なお薬を使います。(図−2)
 
 図−2 悪性リンパ腫
 

3.転移性脳腫瘍

これは脳以外の場所でできたがんが脳へ転移してきたものです。原発の癌としては肺がん、乳がん、大腸がんの順で多くみられます。転移ですのでもとのがんが治療できていないともうだめだと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、脳のがんを摘出することで半年から1年しっかりした状態で元気に人生を送れる方もいらっしゃいますので決してあきらめないことが大事です。(図−3)
 
 図−3 転移性脳腫瘍
 

4.良性脳腫瘍

その他の腫瘍についてはほとんどが良性腫瘍に属しますので代表的な脳腫瘍を簡単にご紹介します。

1) 神経鞘腫 :主に耳の神経(聴神経)から発生する良性腫瘍です。増大スピードはとても遅いので数ミリの大きさで発見されるとたいていは経過観察としますが腫瘍の発生した側の聴力は少しずつ低下しますので聴力が残せる可能性がある時はこの時点で手術をお勧めすることがあります。しかし聴力が残せないと判断されるとしばらく経過観察とすると何年経ってもほとんど大きくならない人もいます。この腫瘍が原因で命を落とすことはほとんどありませんが聴神経の隣には顔面神経がありますのである程度大きくなると顔面神経麻痺をきたします。顔面神経麻痺はつらい症状ですので、ある程度大きくなって顔面神経麻痺が出現しそうであれば手術で取り除きます。(図−4)
 
 図−4 聴神経鞘腫瘍
 
2) 髄膜腫:文字通り脳や脊髄を取り巻いている“脳脊髄膜”の“髄膜”から発生した腫瘍でこれもたいていは良性です。脳自体から発生している訳ではないので基本的に脳は損傷されてないはずですが、良性であるからこそ何年もかかって大きくなり脳をゆっくり圧迫してゆきます。脳はゆっくりと圧迫されるとなかなか症状がでませんがかなり大きくなってからようやく症状が出てきます。そのためこの腫瘍は良性ですが大きくなって初めて症状が出現することが多いので脳はかなり圧迫されています。そのため手術は簡単ではないこともありますが手術で摘出できるとほとんどの場合は再発はありません。(図−5)
 
 図−5 髄膜腫

3) 下垂体腺腫:脳の中心部にはいくつかの重要なホルモンを産生する脳下垂体という部分があります。この部分には下垂体腺腫と言う良性腫瘍が発生することがあります。この腫瘍は意外と多く脳腫瘍全体の20%近くをしめています。この腫瘍も良性ですがホルモンが異常に分泌されると様々な病気となります。また反対に腫瘍が大きくなって正常のホルモンの分泌が減少することもあります。さらにホルモンは分泌しないものの眼の神経を圧迫して視力や視野が障害されることがあります。眼の治療や眼鏡を変えたりしてもどうしても眼の見え方が良くならないときはこの腫瘍も一度検査しておいた方が良い時があります。(図−6)
 
 図−6 下垂体腺腫
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治療

1. 外科治療

良性腫瘍はすぐさま手術しなくてよいことが多いのですが、小さくしたり、完全に消失させるには手術で摘出することが基本となります。またグリオーマは手術で完全に摘出することは難しいのですが手術で腫瘍を小さくしておけばその後の治療(化学療法、放射線療法など)の治療効果が高くなりますのでやはり手術をまず行うことになります。更に悪性リンパ腫が疑われるときも腫瘍のごく一部を採取して悪性リンパ腫であることが確実となってから治療を開始しますので簡単なものとはいえ手術が必要となります。
脳の手術というと怖いと言うイメージがあると思いますが、現在は毛髪はほとんど刈りません。創の部分だけ1センチほど刈るだけですので、退院の頃には創部がほとんどわかりにくくなっていますので一ヶ月ほどで職場に戻ることも十分可能になります。

特殊な手術

1) ナビゲーション手術
脳外科の手術は顕微鏡を使って行いますが脳の内部は一見同じような組織に見えます。現在脳の中のどの部分を操作しているかどうかを自動車のナビゲーションと同じシステムを用いて数ミリも違わずに腫瘍にまで到達することができます。(図—7)
 図—7
 
2) 手術中モニタリングシステム
モニタリングとは監視すると言う意味です。例えば麻痺は絶対に起こしたくない合併症ですが麻痺を起こす脳が紙一重の所に存在する腫瘍もあります。麻痺がおこったかどうかは今までは麻酔から覚めてから初めてわかっていましたが、現在は脳の表面に軽く電気刺激することで手術をしながらリアルタイムに麻痺がおこりそうかどうかわかります。麻痺がおこるかどうかのモニタリングをMEPモニタリング、視野視力のモニタリングがVEPモニタリング、感覚障害のモニタリングをSEPモニタリングといい現在久留米大学の脳神経外科では通常の手術でこれらを行っています。更に聴力のモニタリング、顔面神経のモニタリング、嚥下機能のモニタリングも常に行えますし、久留米大学では独自に眼球運動のモニタリング装置を開発し現在使用しています。

3) 覚醒下手術
上記のモニタリングでもどうしてもわからない機能に言語機能があります。久留米大学では全身麻酔でなく局所麻酔だけで脳を開き、患者さんと会話しながら言語機能を損傷しない手術も行っています(図—8)。
 
 図—8 開頭手術時に患者さんと話しながら
 
4) 内視鏡手術
下垂体腺腫などは鼻腔から内視鏡を用いて顔面・頭部に傷をつけずに手術を行うことができます。術後数日は鼻の奥の違和感などはありますが見た目に傷はつきません。

5) ハイブリッド手術
久留米大学には実際の手術室に血管の中を操作するカテーテル治療が同時に行える手術室:ハイブリッド手術室があります。脳の血管が重要な役割を果たす手術のときはこの部屋を使って血管と脳の手術を同時に行っています。

6) 光線力学的療法
光線力学的療法(Photodynamic Therapy:PDT)とは、腫瘍親和性のある光感受性物質(PDTに使用する薬剤)を投与した後、腫瘍組織にレーザ光を照射することにより光化学反応を引き起こし、腫瘍組織を変性壊死させる選択的治療法です。
この抗腫瘍効果は、レーザ光と光感受性物質との光化学反応によって生成される一重項酸素(活性酸素の一種)の強い酸化作用によります。
PDTは、レーザ光照射部位だけに高い抗腫瘍効果を示す局所療法であるため、外科療法に比べ侵襲が少なく機能温存が可能です。

 

2.化学療法

お薬は残念ながらその多くが血管から脳の中へ到達するときに関所がありそこで止められてしまい脳の中に入り込めないようになっています。これを“血液—脳関門(BBB: blood brain barrier) “と呼びます。このBBBのために他の臓器には有効なお薬が脳だけには効果がないという現象が起こります。そのため脳腫瘍の治療にはこのBBBを通過するお薬を使います。
グリオーマの治療は手術だけで治療をすることはできませんが、手術によりなるべく腫瘍を摘出した後に化学療法を行います。グリオーマにはテモゾロミドと言うお薬(内服薬、注射薬)を使用します。以前のお薬と違って副作用はかなり少なくなっており安全に治療を行えます。またベブシズマブという薬(血管内皮細胞増殖因子に対する抗体治療)も使用します。
 悪性リンパ腫も、手術により病理診断が確定した後に化学療法による治療が必要です。悪性リンパ腫は、メソトレキセートという薬剤を中心に、リツキサン、プロカルバジン、ビンクリスチンを用いた多剤併用化学療法を行います。また、必要に応じてシララビンを用いた化学療法や放射線療法を追加します。これらの治療は入院が必要ですが、薬剤の効果が高い腫瘍ですのできちんと治療することが重要です。また、難治性の悪性リンパ腫に対しては、ベレキシブルという内服薬による化学療法を外来通院で行うことも可能です。
また、久留米大学がんワクチンセンターでは脳腫瘍への免疫療法(がんワクチン治療)も行っています。主に再発または進行期の悪性脳腫瘍が対象で、保険診療外の臨床試験となります。参加には一定の条件がありますので、詳細は「久留米大学がんワクチンセンター」へ尋ねてください。

 

3.放射線治療

グリオーマや悪性リンパ腫は、化学療法だけでなく放射線治療を併用することがほとんどです。久留米大学脳神経外科では放射線科の放射線治療専門家と常に話し合い、連絡を取り合いながら放射線治療を行っています。 また髄膜腫や下垂体腺腫などの良性腫瘍も、どうしても手術ができないものや長い経過で再発したものには放射線治療を行うことがあります。
また、通常の放射線治療とは異なりますが、2018年から初発の膠芽腫を対象とした「交流電場腫瘍治療システム(商品名:オプチューン)」も一般保険診療で使えるようになりました。
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治療成績

主な悪性腫瘍の治療成績は、残念ながら世界的にも大きく変わってはいません。特に最悪性の膠芽腫では、生存期間の中央値は1年をすこし超えるくらいです。基本的には学会主導の各種ガイドラインに沿った治療を行っていますが、「少しでも患者さんの有益な結果に繋がるように」さまざまな治療法を組み合わせています。 良性腫瘍の治療成績は良好です。稀な悪性化がおこらない限り腫瘍が直接の原因で死亡することはありません。良性腫瘍に対しては「腫瘍が少し残存していても腫瘍とともに元気に天寿を全うできること」を目標に治療を行っています。
 
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院内がん登録情報

 
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担当部署と専門医

部門 担当医 外来診療
脳神経外科 森岡 基浩 月曜日午前、水曜日午前
中村 英夫 水曜日午前、木曜日午前
坂田 清彦 月曜日午後、水曜日午前
木曜日午前・午後
小牧 哲 月曜日午前、水曜日午後
木曜日午前・午後
音琴 哲也 月曜日午前、木曜日午後
金曜日午前
小児科 大園 秀一 木曜日午前・午後
放射線科(診断) 安陪 等思  
田上 秀一  
放射線科
(放射線腫瘍センター)
淡河 恵津世 木曜日午前・午後
病理学 古田 拓也  

患者さんご紹介の際には「紹介予約センター」をご利用ください。
予約専用フリーダイヤルTEL:0800-200-4897、FAX:0800-200-9489
紹介予約センター直通TEL:0942-27-5673、FAX:0942-31-7897
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