メニューを飛ばして本文へ移動する

久留米大病院

採用情報

腫瘍センター

食道がん

はじめに

食道がんの患者数は年々増加しています。2017年にはわが国で2万8千人余りが罹患しています。男女比は5:1と男性に多く,男性の癌罹患者数では,前立腺,胃,大腸,肺,肝および肝内胆管,膵臓に続く7番目に多い癌です。

食道がんには色々な種類がありますが,扁平上皮がんと腺がんの2つが代表的な組織型です。わが国を含むアジアでは扁平上皮がんが圧倒的に多く,欧米では腺がんが半数以上を占めます。扁平上皮がんは胸部中部食道に多く,腺がんは胸部下部食道に多く発生するという発生部位の違いもあります。また発生のリスク因子として,食道扁平上皮がんは飲酒や喫煙との関連が高く,腺がんでは逆流性食道炎が指摘されています。

食道がんは,他の消化管がん(胃がんや大腸がん)などと比べて,浅いがんでもリンパ節や他臓器に転移しやすい特徴があるため特に早期発見が重要です。粘膜までにとどまる浅いがんの大半では内視鏡治療で完治します。しかし,粘膜より深く進行したがん(粘膜下層より深く)ではリンパ節転移が多く認められるため,手術や化学放射線療法(抗がん剤と放射線を組み合わせた治療)が必要になります。また,治療後の再発率も高くなります。

進行がんや再発がんに対しては,いくつかの治療を組み合わせた集学的治療を行うことが一般的です。そのためには様々な分野の専門医の存在が不可欠です。大学病院はその点で一般病院より恵まれた環境にあるといえるでしょう。久留米大学病院では多くの経験,知識,データに基づいて食道がん治療を目指しています。以下に食道がんの症状,診断や治療の概略を説明します。
閉じる

症状

食道がんでは様々な症状が出現します。粘膜がんなどの浅いがんでは,ほとんどの症例で症状はありません。
時に胸にしみるような感じがすることがありますが,非常にまれです。
健康診断目的の内視鏡検査でたまたま発見される食道がんの場合もまず無症状です。

ある程度の大きさのがんになると,食事の際につかえる感じがしてきます。
まず固いものの通りが悪くなり,次第に柔らかいものでも通りが悪くなってきます。
さらにがんが大きくなり食道を塞ぐようになると,水分の通りも悪くなります。
こうなると食事の際にしばしばもどすようになってきます。
つかえが強くなるとむせて,咳がでることもよくあります。

食べ物がつかえるようになってくると,次第に体重が減ってきます。
1か月で3~5kg以上も減ることがしばしばあります。

その他には,胸痛や背部痛がでることもあります。
癌が食道の壁を破り周囲の臓器へ広がっている場合にみられる症状です。

さらに声の調子が悪くなり,”かすれ”てくることがあります。嗄声(させい)といいます。
これは声帯を動かす神経(反回神経といいます)ががんのリンパ節転移におかされた場合に出る症状です。

その他にがんが転移している場合には,転移した部位により様々な症状が出現することがあります。
食べ物がつまりやすい等の食道自体の症状はないにもかかわらず,転移した部位の症状によって食道がんが発見されることもしばしばあります。
思わぬ症状が実は食道癌がんによるものだったというのはそれほど珍しいことではありません。
 
 
閉じる

診断

食道がんの診断は内視鏡検査(“胃カメラ”)で行います。その際に腫瘍組織の一部をとり(生検と言います),顕微鏡検査でがん細胞が見つかれば食道がんの確定診断(最終的な診断のことです)となります。がんの存在診断の後には,進行度診断(がんがどれほどの進行度であるか診断する)が必要です。がんの進行状況を診断し,それに合わせた治療を行うためです。上部消化管造影検査(バリウムを用いた造影検査),CT検査,PET検査,超音波検査などを用います。これらの検査で食道がんの進行度を調べるとともに,他の臓器にがんを含めた腫瘍がないかも知ることが可能です。実際に,検査してみると食道がん以外に咽頭など“のど”のがんや胃がんを併発しているケースは多く見られます。

さらに,治療における危険因子となる病気が存在していないかも調べます。食道がんに罹患する方は肝臓や呼吸器の疾患,糖尿病や心臓病など他の疾患を併発しているケースが非常に高率であるからです(当院ではアルコール性肝障害を合併している割合が50%以上と非常に高率です)。治療を選択するためにも全身状態の把握が重要です(血液検査,心電図,呼吸機能検査など)。耳鼻咽喉科,口腔外科,心臓血管内科や呼吸器内科など多くの診療科の協力により治療前の状態把握に努めています。
 
閉じる

治療

一般的な治療方法として,浅い早期のがんには内視鏡治療を,ある程度の深さがありリンパ節転移が予想されるがんには手術や化学放射線療法(放射線+抗癌剤の治療)が行われます。また肝臓や肺など他の臓器に転移があり根治治療(癌を治す治療)が困難な場合には,症状を緩和するための治療が行われます。当院では全ての食道がんに対応可能です。以下に代表的な治療法である内視鏡治療,外科手術,化学放射線療法について説明します。
 

1.内視鏡的治療

食道は“のど”と胃をつなぐ,管状の臓器です。厚さは3~4mm程度しかありません。そしてその管はいくつかの層から成り立っています。内側から①粘膜(ここから癌は発生します),②粘膜下層,③筋層,そして最も外側には④外膜と言われる膜があります。 食道がんでは,がんの深さが“粘膜内にとどまる”場合を,早期がんと言います(早期がんの定義は癌の種類によって異なります)。そして,早期がん(=粘膜がん)ではリンパ節転移はめったに起こりません(*)。このため,粘膜がんの多くで内視鏡治療が可能です。そしてその大半は完治します。

内視鏡治療には①内視鏡的切除術(内視鏡的粘膜切除術[EMR]と内視鏡的粘膜下層剥離術[ESD]の2つの方法があります)や②レーザー治療(アルゴンプラズマ凝固療法[APC],光線力学療法[PDT])がありますが,中心的役割を担っているのは①の内視鏡的切除術です。EMR,ESDのいずれも,食道がんを内視鏡で観察しながら,さまざまに工夫された器具を用いてがんを切除する方法です。

手術と比べて体への負担が少ない,非常に優れた方法です。わが国で開発され,1990年代から盛んに行われ発展してきました。胃がんや大腸がんでも行われています。現在では世界中で行われています。

*厳密には粘膜をさらに3つの層に分けて検討されており,粘膜の最も深い部位まで達すると数%~10%の転移がみられます。内視鏡治療の適応や方法など詳細は担当医へご質問ください。

 
 

2.外科治療

食道がん手術はがんが粘膜下層,筋層や外膜まで達した場合の標準的治療です。がんが食道の壁を越え周囲の臓器にまで達する場合(浸潤といいます)には,一部の例を除いて手術はできません。このような症例には後で説明する化学放射線療法などを行います。
ステージIの方には手術を受けて頂きます.ステージIIあるいはIIIの方には術前化学療法を受けて頂き,そのあとに手術を行います.
 手術では,頸部食道を残し,ほとんどの食道を切除することとリンパ節郭清を行い,再建臓器として胃を用いる方法が行われます.当院ではこれまでは右開胸を行い,食道亜全摘を行っていましたが,2020年から胸腔鏡下に食道亜全摘を行う方法を導入いたしました。
実際の手術では,全身麻酔をかけたあと,体位を腹臥位(うつぶせ)としたあと,右側胸部に6か所の皮膚切開を行い,ポートを挿入したあと食道切除とリンパ節郭清を行います。
そのあと,体位を仰臥位(仰向け)として,腹部と頸部の手術に移ります。腹部操作では腹腔鏡補助下に胃周囲のリンパ節を郭清します。食道切除した後の再建臓器として胃管を作成します。頸部の操作は腹部操作と同時進行で行っています。頸部リンパ節の郭清を行ったあと、腹部操作で作成した胃管を頸部に持ち上げ,残った食道と吻合します(つなぎ合わせること)。

胃管を頸まで持ち上げる経路にはいくつかあります。①元々の食道があったところを通す方法,②胸骨という胸の骨と心臓の間を通す方法,③胸骨の前で皮下を通す方法です。がんやその他の持病の状況(例えば心臓手術の既往など)に応じて決定しています。どの通し方にも一長一短があります。自分にはどの方法が用いられるかは担当医にご質問ください。

手術はすべての食道がんに対して可能というわけではありません。手術の適応(どのような癌に手術を行うか)や手術方法,手術の合併症や術後成績など詳細については担当医にご質問ください。
 

3.化学放射線療法

放射線療法と化学療法(抗がん剤治療)という2種類の治療方法を組み合わせた治療です。放射線治療のみよりも化学放射線療法として放射線と抗癌剤を同時に用いた方が効果が高いことが明らかになっています。このため,根治を目指す場合には放射線の単独治療ではなく,化学放射線療法を行います。手術が可能であるが手術を希望しない,あるいは何らかの理由で(肺機能が低下している等)手術ができない場合,またがんが食道の壁を越え周囲の臓器に達する場合(浸潤といいます)にも化学放射線療法は行われます。

食道の腫瘍自体とリンパ節転移の領域を含めて放射線治療を行い,抗癌剤としてはシスプラチンと5-FUという2種類を用いた併用療法(一緒に使う治療方法)が標準的で全国で最も多く使われています。当院でもこの組み合わせで主に治療を行っています。放射線治療は25回~30回行われます(1週間に5日間の治療を5~6週間行う)。

手術が可能な進行度の症例に対して,化学放射線療法は手術と同等の生存率が得られるという意見もありますが(特に粘膜下層癌などの浅いがん),一般的には手術可能症例では手術の方が良好な治療結果をもたらすと考えられています。しかし,近年化学放射線療法で完治すれば食道を残すことができることから(食道温存といいます),手術が可能な症例でも化学放射線療法を選択する場合が増加しています。

化学放射線療法が良く効いて一旦は癌がなくなったように見えたのに,しばらく経ってから癌が再び大きくなることがあります。このような場合,症例によっては手術でがんを取り除くことが可能です(サルベージ手術といいます)。 化学放射線療法の詳しい方法,適応,合併症や奏効率(どれぐらい効くのか)など詳細は担当医にご質問ください。

閉じる

治療成績

食道がんに対する治療成績は進行度によって異なりますし,同じ進行度(同じ進行度でもリンパ節転移の状況により異なります)でも治療方法によっても異なります。一般的にがんの進行度があがるほど予後は悪くなります。また,重篤な持病の有無や胃がん・咽頭がん・肺がんなど他のがんの発生の有無によっても予後は少なからず異なります。

がんの治療成績は,その予後として5年生存率(患者全体のうち5年後に生存していると予想される割合)として示されます。「5年生存率は80%です」というように使われます。粘膜がん(一部粘膜下層がん)は現在ほとんどが内視鏡的治療で治療されており、5年生存率は90%ほどです。

粘膜下層まで達した食道がんはまず手術で治療されます。5年生存率は約75%です。
粘膜下層まで達しておりリンパ節転移のない症例への標準治療である手術と根治的化学放射線療法を比較した試験(JCOG0502)では,根治的化学放射線療法が非劣性を示し,標準治療の1つとして考慮すべきである結果となりました。
筋層まで達していた場合は若干下がって55%ほどの生存率になります。筋層からさらに深くなって外膜(食道の一番外側)まで達すると5年生存率は40~50%ほどになります。

がんが食道の壁をつき破り,大動脈や気管など食道周囲の臓器まで達した食道がんや肺・肝臓・骨など他の臓器に転移した食道がんの予後は極めて不良です。しかしながら,相当進んだ食道がんでも治療が良く効いて完治することもあります。
閉じる

おわりに

食道がんは粘膜癌の段階で発見されれば内視鏡治療(すべてではありませんが)で治りますが,それ以上に進行した状態では手術や化学放射線療法が必要となります。いずれの治療も大きな負担となる治療ですので,早期発見が非常に重要です。

そして食道がんが見つかった場合は,できるだけ早く専門医を受診してください。適切な診断を受け,どのような治療が可能なのか,どの治療が適切かを担当医から十分に説明を受け,治療法を選択することが大切です。
閉じる

院内がん登録情報


閉じる

担当部署と専門医

部門 担当医 外来診療
消化器外科
(食道外科)
森 直樹 月曜日午前・午後
日野 東洋、最所 公平 金曜日午前・午後
中川 将視  
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 梅野 博仁 火・金曜日午前
千年 俊一 月・水曜日午前
小野 剛治 金曜日午前・午後
形成外科・顎顔面外科    
患者さんご紹介の際には「紹介予約センター」をご利用ください。
予約専用フリーダイヤルTEL:0800-200-4897、FAX:0800-200-9489
紹介予約センター直通TEL:0942-27-5673、FAX:0942-31-7897
閉じる