腫瘍センター
肺がん
はじめに
がんの統計 ‘14によると、日本の2014年の肺がん死亡数は72,734人で、男性ではがん死亡の1位、女性では大腸がんに次いで2位であり、男性でがん死亡全体の24%を占め、女性では14%を占めています。
肺がんは非小細胞肺がん、および小細胞肺がんの2つに大別され、日本では肺がん全体の約80-85%を非小細胞肺がん、約15-20%を小細胞肺がんが占めています。
非小細胞肺がんは、予後、化学療法、放射線療法に対する感受性が類似した組織型(腺がん、扁平上皮がんおよび大細胞がん)に細分類されています。腺がんは主に肺の末梢(肺胞領域)に発生し、非常に増殖の早いものから緩徐なものまで様々な経過をとり、日本の男性肺がんの40%、女性肺がんの70%以上を占めています。扁平上皮がんは肺の中枢側(肺門部)から発生することが多く、男性肺がんの40%、女性肺がんの15%を占めています。また、扁平上皮がんは局所進展傾向が強く、隣接臓器への浸潤例あるいは縦隔リンパ節転移例においても遠隔転移を認めないことも少なくありません。大細胞がんは腺がん、扁平上皮がんのいずれにも分類されない非小細胞肺がんで、一般に増殖は早いといわれています。小細胞肺がんは腫瘍の増殖速度が速いが、化学療法、放射線療法に対する感受性が高いなど、非小細胞肺がんとは異なる特徴を有しています。
一般に、非小細胞肺がんは小細胞肺がんと比較して進行が遅く、化学療法や放射線療法による反応が不十分であることを特徴とします。すなわち、腫瘍が限局している時期では外科的切除が第一選択となりますが、発見時には既に遠隔転移を来していることも少なくなく、外科的切除不能例も多いです。
肺がんの治療方針は病期診断(ステージといいます)、組織型、全身状態等に基づき決定されます。肺がん取扱い規約第7版に基づく臨床病期別の治療方針概略を以下に解説します。
臨床病期I期、Ⅱ期の非小細胞肺がんでは、大部分が治癒を期待した完全切除が可能であり、外科手術が標準的治療として第一の選択肢となります。ⅢA期では外科的切除、放射線療法、化学療法又はこれらを組み合わせた治療が行われます。ⅢB期では化学療法と放射線療法の併用が標準的に行われますが、根治的胸部放射線療法の適応とならない場合は、全身化学療法の適応となりますので、Ⅳ期に準じた治療が行われます。Ⅳ期では化学療法が標準的治療となり、実施不可能なケースに対しては支持療法(緩和治療)が行われます。
小細胞肺がんでは、がんの広がりが、放射線照射が可能な範囲にとどまっているか、そうでないかによって方針が決まります。すなわち、放射線照射が可能な場合には、原則として放射線療法と化学療法の併用療法が行われますが、放射線照射が不可能な場合には、化学療法単独での治療が行われます。
ただし、肺がんの治療成績は、いまだ満足できるものではないのが現状です。国際肺がん学会が1990年から2000年にかけて集積したデータによると、臨床病期別(肺がん取扱い規約第7版)の5年生存率はⅠA期50%、ⅠB期40%、ⅡA期24%、ⅡB期25%、ⅢA期18%、ⅢB期8%、Ⅳ期ではわずか2%程度です。
当院で、肺がんを取り扱う診療科は呼吸器内科、呼吸器外科、放射線診断部、放射線治療センターや緩和ケアセンターと多岐にわたりますので、各科が密に連携し、より良い治療法の開発を進めています。以下に当院における肺がんの診断・治療の現状や特徴、臨床研究・治験についてお示し致します。
肺がんは非小細胞肺がん、および小細胞肺がんの2つに大別され、日本では肺がん全体の約80-85%を非小細胞肺がん、約15-20%を小細胞肺がんが占めています。
非小細胞肺がんは、予後、化学療法、放射線療法に対する感受性が類似した組織型(腺がん、扁平上皮がんおよび大細胞がん)に細分類されています。腺がんは主に肺の末梢(肺胞領域)に発生し、非常に増殖の早いものから緩徐なものまで様々な経過をとり、日本の男性肺がんの40%、女性肺がんの70%以上を占めています。扁平上皮がんは肺の中枢側(肺門部)から発生することが多く、男性肺がんの40%、女性肺がんの15%を占めています。また、扁平上皮がんは局所進展傾向が強く、隣接臓器への浸潤例あるいは縦隔リンパ節転移例においても遠隔転移を認めないことも少なくありません。大細胞がんは腺がん、扁平上皮がんのいずれにも分類されない非小細胞肺がんで、一般に増殖は早いといわれています。小細胞肺がんは腫瘍の増殖速度が速いが、化学療法、放射線療法に対する感受性が高いなど、非小細胞肺がんとは異なる特徴を有しています。
一般に、非小細胞肺がんは小細胞肺がんと比較して進行が遅く、化学療法や放射線療法による反応が不十分であることを特徴とします。すなわち、腫瘍が限局している時期では外科的切除が第一選択となりますが、発見時には既に遠隔転移を来していることも少なくなく、外科的切除不能例も多いです。
肺がんの治療方針は病期診断(ステージといいます)、組織型、全身状態等に基づき決定されます。肺がん取扱い規約第7版に基づく臨床病期別の治療方針概略を以下に解説します。
臨床病期I期、Ⅱ期の非小細胞肺がんでは、大部分が治癒を期待した完全切除が可能であり、外科手術が標準的治療として第一の選択肢となります。ⅢA期では外科的切除、放射線療法、化学療法又はこれらを組み合わせた治療が行われます。ⅢB期では化学療法と放射線療法の併用が標準的に行われますが、根治的胸部放射線療法の適応とならない場合は、全身化学療法の適応となりますので、Ⅳ期に準じた治療が行われます。Ⅳ期では化学療法が標準的治療となり、実施不可能なケースに対しては支持療法(緩和治療)が行われます。
小細胞肺がんでは、がんの広がりが、放射線照射が可能な範囲にとどまっているか、そうでないかによって方針が決まります。すなわち、放射線照射が可能な場合には、原則として放射線療法と化学療法の併用療法が行われますが、放射線照射が不可能な場合には、化学療法単独での治療が行われます。
ただし、肺がんの治療成績は、いまだ満足できるものではないのが現状です。国際肺がん学会が1990年から2000年にかけて集積したデータによると、臨床病期別(肺がん取扱い規約第7版)の5年生存率はⅠA期50%、ⅠB期40%、ⅡA期24%、ⅡB期25%、ⅢA期18%、ⅢB期8%、Ⅳ期ではわずか2%程度です。
当院で、肺がんを取り扱う診療科は呼吸器内科、呼吸器外科、放射線診断部、放射線治療センターや緩和ケアセンターと多岐にわたりますので、各科が密に連携し、より良い治療法の開発を進めています。以下に当院における肺がんの診断・治療の現状や特徴、臨床研究・治験についてお示し致します。
外科治療
1.手術適応と標準術式
臨床病期による手術適応は、非小細胞肺癌(NSCLC)ではStage Ⅰ, Ⅱ, およびStage ⅢAの一部の症例が手術適応になり、Stage ⅢB, Ⅳは化学放射線療法、もしくは化学療法の適応になるのが原則です。しかしながらStage ⅢB, Ⅳであっても血痰や腫瘍熱などの症状緩和目的で手術になることがあります。一方、小細胞肺癌(SCLC)ではStage Ⅰのみが手術適応になります。そしてSCLCでは術前もしくは術後に化学療法を追加するのが原則です。呼吸機能検査では術後残存1秒量が800ml以上あることをひとつの目安としています。また片肺全摘除術を行う際には一側肺動脈閉塞テストで耐術能を評価することがあります。肺癌の根治術としての標準術式は葉切除+肺門・縦隔リンパ節郭清です。心肺機能などの全身状態が十分でない症例に対する区域切除・部分切除(消極的縮小手術)、悪性度が低いと考えられる小型肺癌に対する区域切除・部分切除(積極的縮小手術)も増えています。
2.胸腔内へのアプローチ方法
当院ではほとんどの症例に胸腔鏡を使用します。もちろん一つの穴(ポートといいます)で手術ができるわけではなく、症例に応じて傷の大きさやポートの位置を決定します。当院で主に行うアプローチ法は完全胸腔鏡下法と前方腋窩切開法です。前者はカメラポート以外に主として2か所にポートを開けてモニター視で手術を行います。後者はカメラポート以外に12cm程の傷を開けてモニター視と直視を併用して行います。安全性の点からは後者の方が多少優っている場合もありますが、最近では前者の症例数が増加しています。痛みに関しては、術直後は前者の方が少ない印象ですが半年程経過すると大差はない印象です。患者さんの状態と希望を含めて決定していますが、何より大切なことは胸腔内できちんとした癌の手術を安全に行うことだと考えています。3.局所進行肺癌の手術
胸壁・縦隔・心大血管・横隔膜などに浸潤している肺がんでも遠隔転移がなければ積極的に手術を考慮します。この手術は難易度が高く・侵襲が大きく・他科の協力が必要です。当院では麻酔科が全面的に協力してくれますし、心臓血管外科と同じ病棟なので常に相談・協力できる体制が整っています。4.早期肺がんの積極的縮小手術
特にCT画像の進歩に伴って、従来では発見されていなかった小型病変やスリガラス様の淡い病巣が指摘されるようになってきました。更に腺がんの組織亜系分類が予後に関連することが示されるようになったため、よりテーラーメイドの術式選択が可能な時代になりました。病理部の協力を得ながら積極的に縮小手術も行っています。また、術中に触知不能な小病巣に対して、ハイブリッド手術用血管撮影装置を応用した術中マーキング法を世界で初めて発案して実際の臨床に役立てています。5.臨床病期と病理病期のギャップ
臨床病期では手術適応がないと判断される症例でも、詳細を検討すると中には手術が可能な症例があります。抹消の2次性変化や炎症性変化をがん浸潤と区別するのが困難な症例にはよく遭遇します。従って一旦手術を諦めた症例でも相談して頂く価値はあると思います。6.呼吸器インターベンション治療
悪性腫瘍が中枢気道に浸潤して狭窄・閉塞を来した場合、レーザー・ステント・バルーニングなどで気道拡張術を行います。これによって窒息死を回避するばかりではなく、次の治療への橋渡しができます。硬性気管支鏡を使用したインターベンション治療にも積極的に取り組んでいます。7.高齢者肺がんの外科治療
高齢化社会に伴って元気な高齢者が増えています。従って80歳を超えて肺がんと診断された患者様でも手術を選択する機会は以前より確実に増加しています。一方で高齢者では基礎疾患を有する方も多く、症例ごとに治療の適応を検討しています。当院の肺がん手術症例の10%弱は80歳以上です。化学療法
肺がんに対して化学療法を行う場面は多岐にわたります。非小細胞肺がんでは、進行期(発見時すでに遠隔転移を認める)や術後再発した場合はもとより、放射線治療との併用療法を行う局所進行期、さらには、手術可能な早期がんにおいても、一部のごく早期例を除き、術後に補助化学療法を行うことがあります。小細胞肺がんでは、病期によらず化学療法が治療の重要な位置を占めています。
近年、非小細胞肺がんの中には、がん細胞が有する特殊な遺伝子の変化が、肺がんの増殖と密接に関係しているものがあることが分かってきました。また、そのような遺伝子が作り出す分子を標的とした薬剤もいくつか開発されており、化学療法は個別化の時代に入りつつあります。
治療方針を決めるに当たっては、その時点での体調が極めて重要な要素となります。したがって、体調があまり芳しくない場合では、抗がん剤1種類での治療となることがあったり、抗がん剤治療により期待できる効果よりも、体におよぼす負担のほうが明らかに大きいと判断される場合には、化学療法をお勧めしないこともあります。
本章では、肺がんに対する化学療法の概略を示しましたが、これらは、原則として、ある程度普段通りの日常生活が送れている患者さんに対する初回治療のものであり、体調が思わしくない場合や、高齢の患者さん、2次治療以降などでは、治療方法、方針が異なることもございますので、担当の先生とよく相談してください。また、肺がんに対する化学療法は、それ単独で病気を完全に治すことは難しいのが現状です。したがって、化学療法を行う際には、どのような目標を置いて治療を組み立てていくのかといった情報と意思を、患者さん本人、ご家族、医師をはじめとした医療従事者のあいだでしっかりと共有することが、もっとも重要となります。
近年、非小細胞肺がんの中には、がん細胞が有する特殊な遺伝子の変化が、肺がんの増殖と密接に関係しているものがあることが分かってきました。また、そのような遺伝子が作り出す分子を標的とした薬剤もいくつか開発されており、化学療法は個別化の時代に入りつつあります。
1.特殊な遺伝子変異を持たない進行・再発非小細胞肺がんに対する化学療法
肺がんに対する化学療法の開発は、他の固形がんに先行して進み、1995年にシスプラチンを使用した化学療法が明らかに生存を延長することが、はじめて報告されました。以来、新薬の開発とともに、治療法は進歩し、現在はプラチナ製剤(シスプラチンやカルボプラチン)とドセタキセル、パクリタキセル、ペメトレキセド、ジェムシタビン、S-1、ビノレルビンといった薬剤との2剤併用療法が標準治療となっています。また、近年、従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤といいます)と作用機序が異なり、腫瘍細胞に酸素や栄養を供給する血管の成長を妨げるベバシズマブが、一部の抗がん剤との組み合わせで治療効果を上げることがわかり、状況に応じて使われることもあります。これらの治療は、3〜4週を1サイクルとして、4〜6回繰り返します。規定の回数が終了したら、病勢進行がない限り、そこで治療はいったん終了とし経過観察となりますが、ペメトレキセドが使われる場合は、(治療成績が向上することが示されているため)併用療法が規定の回数終了した後にもペメトレキセド単剤での治療が継続されます(維持療法といいます)。ほとんどが点滴での治療が主体となりますが、以前に比べて、吐気止めなどの薬剤が非常に進歩したことで、現在は、外来での通院治療を行うことが多くなってきています。治療方針を決めるに当たっては、その時点での体調が極めて重要な要素となります。したがって、体調があまり芳しくない場合では、抗がん剤1種類での治療となることがあったり、抗がん剤治療により期待できる効果よりも、体におよぼす負担のほうが明らかに大きいと判断される場合には、化学療法をお勧めしないこともあります。
2.特殊な遺伝子の変化を持つ進行・再発非小細胞肺がんに対する化学療法
上述のように、非小細胞肺がんの中には、がんの増殖を強力に誘導する特殊な遺伝子の変化を有する場合があることがわかっています。現在、非小細胞肺がんでは、EGFR遺伝子とALK遺伝子という2つの遺伝子の変化が、それぞれ、がんの増殖に強く関与することが解明されています。この遺伝子異常によってがん細胞に発現する分子を標的としてがんの増殖を制御する薬剤(分子標的薬といいます)が近年開発されており、これらの薬剤は、従来の抗がん剤治療に比べて劇的な効果をもたらすことが分かっています。EGFR遺伝子を標的とした薬剤には、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブの3種類が、ALK遺伝子を標的とした薬剤では、クリゾチニブ、アレクチニブの2種類が、現在日本で使うことができます。したがって、これらの遺伝子の変化を持つことが判明した場合は、このような分子標的薬が治療の第一選択となります。3.切除不能の局所進行非小細胞肺がんに対する化学療法
がんが一定の範囲内に止まっているが、根治を目指した手術が難しい場合、化学療法と放射線療法を併用した治療法(化学放射線療法といいます)が選択されます。化学療法は、進行・再発例と同様の、抗がん剤2種類の組み合わせによる治療を行います。放射線療法は、線量を分割して毎日(土日祭日は除く)照射するため、治療期間は放射線治療と化学療法を併用する期間で約2カ月かかります。状況によっては、その後、化学療法のみを2サイクル追加することがあります。4.術後補助化学療法
手術が可能であった場合、術後に病理診断として最終的な病期が確定しますが、その中でⅠ期の一部とⅡ期、Ⅲ期では、術後に化学療法を追加することで、一部の患者さんでは治療成績の向上につながることが分かっています。Ⅰ期の場合はUFTという経口の抗がん剤を、Ⅱ期以上であれば、シスプラチンとビノレルビンによる点滴での治療が選択肢となります。しかし、手術は本来、根治を目的とした治療であり、約半数の患者さんは、術後に化学療法を受けなくても根治していることがわかっているので、補助療法の導入については、化学療法による体への負担などを慎重に検討して適応を決定します。5.小細胞肺がんに対する化学療法
小細胞肺がんは、腫瘍の増殖速度が速く、発見時には手術ができない状況であることが多く、また、早期であっても手術のみでは制御が不十分であることがわかっています。そのため、治療の主体は化学療法と放射線療法となります。上述のように、小細胞肺がんの治療方針は、がんが放射線治療可能な範囲内に止まっているか、その範囲を越えているかで決まります。放射線治療が可能な場合は、シスプラチン(またはカルボプラチン)とエトポシドの2剤併用療法に放射線治療を同時併用する治療を行います。放射線照射が可能な範囲を越えてがんの進展がある場合は、シスプラチンとイリノテカン(またはエトポシド)による化学療法単独が選択肢となります。小細胞肺がんでは、手術が選択肢となるのは、Ⅰ期の場合に限られますが、その場合でも、術後に化学療法を行うことが勧められています。本章では、肺がんに対する化学療法の概略を示しましたが、これらは、原則として、ある程度普段通りの日常生活が送れている患者さんに対する初回治療のものであり、体調が思わしくない場合や、高齢の患者さん、2次治療以降などでは、治療方法、方針が異なることもございますので、担当の先生とよく相談してください。また、肺がんに対する化学療法は、それ単独で病気を完全に治すことは難しいのが現状です。したがって、化学療法を行う際には、どのような目標を置いて治療を組み立てていくのかといった情報と意思を、患者さん本人、ご家族、医師をはじめとした医療従事者のあいだでしっかりと共有することが、もっとも重要となります。
放射線療法
1.非小細胞肺がん
【適応】非小細胞肺がんの根治的放射線療法の適応となる臨床病期はⅢA期および多発結節・対側肺門リンパ節転移を除くⅢB期の局所進行がんと、高齢や合併症のために手術不能・手術拒否のⅠ-Ⅱ期です。
局所進行がんでは高齢者や全身状態不良例を除けば、プラチナ製剤を含む化学療法との併用が推奨されています。
リンパ節転移がある場合(pN2)の術後照射は局所再発を低下させることが示されていますが、生存期間への寄与に関する意義は確立されていません。その理由として、非扁平上皮がん(腺がん,大細胞がん等)のリンパ節転移(pN2)は遠隔転移再発の頻度が高いことが挙げられます。一方、扁平上皮がんでは術後照射が局所制御率を向上させ、生存率も改善することが示されています。したがって、術後照射の効果が最も期待できるのは、複数の領域リンパ節転移を有する扁平上皮がん症例と考えられます。
局所進行がんに対する術前照射は、現時点では推奨できるだけの根拠はありまんが、肺尖部胸壁浸潤型(T3-4N0M0)症例では化学療法との併用も含めて施行されています。
【治療計画および処方線量】
標準的放射線療法では1日1回1.8~2Gyを週5回照射の単純分割照射が行われています。
総線量は顕微鏡的な腫瘍細胞量(予防線量)に対しては40~50Gy、肉眼的腫瘍体積(GTV:Gross tumor volume)に対しては60~66Gyが推奨されています。
照射野マージンは呼吸性移動を考慮して設定し、前後対向2門で40~45Gyまで照射した後に脊髄を外して斜入対向2門にすることが一般的です。
現時点では線量増加(74Gy)による治療成績向上を積極的に支持する報告はありません。(Lancet Oncol. 2015 Feb;16(2):187-99.)
強度変調放射線治療(IMRT:Intensity-Modulated Radiation Therapy)は胸部領域においては広範な肺野低線量域の問題や呼吸性移動対策等もあり、一般的ではありません。
2.小細胞肺がん
【適応】手術可能なⅠ期症例を除く限局型小細胞がん(以下LD-SCLC)に対しては化学放射線療法が標準治療となっています。
【併用化学療法】
併用化学療法はシスプラチン、エトポシドが一般的に使用されます。現在シスプラチン/イリノテカンは小細胞肺がんの有力なオプションではあるものの、シスプラチン/エトポシドに取って代わるまでには至っていません。
【照射野】
予防的リンパ節領域として、同側肺門、気管分岐部リンパ節、上縦隔リンパ節領域までを設定します。上縦隔リンパ節転移がある場合は同側鎖骨上領域、鎖骨上リンパ節転移がある場合は両側鎖骨上領域を予防域に含めます。
【処方線量】
加速過分割照射(1日2回照射)で45Gy(30回)の治療が標準です。
【予防的全脳照射】
・脳には抗がん剤が十分に入っていきにくい構造であるため、限局型で,初期治療で効果が得られた症例(CR)では、予防的全脳照射を標準治療として行うよう勧められています。遅発性有害反応軽減のため25Gy(10回)が一般的です。良好な初期効果が確認され次第, できるだけ早期(治療開始6か月以内)に予防的全脳照射を行うよう進められています。
・進展型では、化学療法後のPCIは行わないという見解が一般的です。
【有害事象(非小細胞がん/小細胞がん)】
急性期有害事象:放射線性肺臓炎、放射性皮膚炎
晩期有害事象:放射線性肺臓炎、肺線維症、胸水、心嚢水、気管潰瘍、食道潰瘍、肋骨骨折、気胸、術後胃管潰瘍、皮膚潰瘍、腕神経叢障害、放射線肝障害(RILD)
3.体幹部定位放射線治療(SBRT:stereotactic body radiotherapySABR:stereotactic ablative radiotherapy)
腫瘍最大径が5cm以内でリンパ節転移や遠隔転移のないもの、すなわちT1N0M0およびT2aN0M0が良い適応です。1回線量を多くして照射回数を少なくする小分割照射(12Gy×4回、7.5Gy×8回等)が用いられ、外来通院治療が可能です。切除可能 Ⅰ期肺がんに対する定位放射線治療と肺葉切除術の無作為化比較試験2件(STARSとROSEL試験)について統合解析の結果(Lancet Oncol 2015; 16: 630-37)では両試験(58症例)の3年全生存率で手術群が79%、定位照射群が95%で後者において有意差をもって低下しました。しかし、本来の比較試験ではないため標準治療は依然として手術となります。
4.粒子線治療
粒子線治療には陽子線と重粒子線(炭素イオン線)の2つあります。陽子より重い原子核を使った粒子線を重粒子線と呼びます。これらを区別する理由は、生物学的効果の違いに由来しています。生物学的効果とは同じ線量における細胞殺傷率の違いを表しており、陽子線の生物学的効果はX線や電子線とほぼ同じですが、炭素イオン線はX線・電子線の2~3倍の生物学的効果を持っています。粒子線治療では線量集中制高い分布で治療できるため,有害事象軽減(特に晩期)が期待されています。対象は非小細胞肺がんであり、Ⅰ期もしくはⅡ期でリンパ節転移のない肺野末梢型、肺門・肺門近接型、術後肺門・縦隔リンパ節再発等が適応となります。化学療法の併用に関する安全性は未知数であり、現時点で併用することはありません。
費用は高度先進医療が適用されていますが、陽子線治療で約 280万円前後、重粒子線治療で約 314 万円かかります。
5.緩和照射
【転移性脳腫瘍】転移性脳腫瘍に対してはガンマナイフやサイバーナイフ、定位放射線治療といったピンポイント照射を行う場合があります。病変数が多い場合は全脳照射30Gy(10回)程度を検討します。
【転移性骨腫瘍】
有痛性骨転移や硬膜外脊髄圧迫や病的骨折のリスクのある骨転移巣に対して緩和照射を行います。予後や全身状態を考慮して8Gy1回照射、20Gy/5回/1週、30Gy(10回)、40Gy(20回)等のスケジュールで治療を行います。除痛効果は照射開始後1~2週で出現し、4~8週以降は変わらなくなります。骨転移の除痛有効率は80~100%で、疼痛の消失率は40~60%といわれています。
腫瘍によって脊髄が圧迫されている場合は緊急照射の適応となります。診断時に歩行可能であれば90%の症例で治療後もその機能を失うことはありませんが,できるだけ早く診断して治療することが望まれます。治療開始前に既に歩行困難な症例では機能回復は厳しいといわれています。
【上大静脈症候群】
上大静脈症候群とは腫瘍が上大静脈を閉塞することにより頭頸部や上半身に静脈うっ滞がみられる病態です。頭頸部の腫脹感、起座呼吸、咳嗽がみられ急速に進行する場合は致命的となります。予後を考慮して8Gy(1回)、30Gy(10回)、40Gy(16~20回)を選択します。
院内がん登録情報
担当部署と専門医
部門 | 担当医 | 外来診療 |
---|---|---|
呼吸器内科 | 石井 秀宣 | 月曜日午前 |
時任 高章 | 火曜日午前、金曜日午前 | |
東 公一 | 水曜日午前、木曜日午前 | |
呼吸器外科
(肺がんセンター)
|
光岡 正浩 | 木曜日午前 |
放射線科 (画像診断) |
藤本 公則 | |
放射線科
(放射線腫瘍センター)
|
淡河 恵津世 | 木曜日午前・午後 |
服部 睦行 | 水曜日午前 | |
村木 宏一郎 | 火曜日午前 | |
病理部 | 秋葉 純 |
患者さんご紹介の際には「紹介予約センター」をご利用ください。
予約専用フリーダイヤルTEL:0800-200-4897、FAX:0800-200-9489
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