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久留米大病院

採用情報

腫瘍センター

肝臓がん

はじめに

本邦における肝がんの死亡者数は年間約25000人で、2004-5年をピークに減少傾向は認めるものの、悪性腫瘍による死因の中では、いまだ男性で6位、女性で8位を占めています。 肝臓を原発とする肝がんには、肝細胞がん、混合型肝がん、肝内胆管がん、細胆管がんなどが含まれますが、大部分は肝細胞がんです。 肝がんの原因は、B型、C型肝炎ウイルスによる肝障害、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などです。約20年前はC型肝炎ウイルス関連肝がんが70%以上を占めていましたが、インターフェロンやDAA(直接作用抗ウイルス剤)などの抗ウイルス療法の普及の結果、現在では、C型肝炎ウイルス関連肝がんが減少し(50%以下)、非B非C型肝がんの比率が高くなってきています。また、高齢者や女性の増加も見られます。非B非C型肝がんの原因は、主にNASH、アルコール性肝障害で、特に、肥満や生活習慣病と密接な関連のあるNASHは、2型糖尿病患者の死因の調査によると、癌の中で最も多いことが報告されています。肝がんのハイリスクグループについて、肝炎ウイルス感染患者の囲い込みは比較的容易ですが、肥満や糖尿病患者などのうちサーベイランスの対象患者さんの囲い込みは困難です。FIB4-indexやNAFLD fibrosis scoreなどによる絞り込みが推奨されていますが十分ではありません。

肝がんの診断においては、腹部超音波検査と腫瘍マーカーがサーベイランスの第一選択です。これらの検査で異常が疑われる場合、または、十分な情報が得られない場合に、造影CTや造影MRIを行います。最近では、MRIの造影剤の進歩や造影超音波検査によりがんの存在診断に加え、悪性度診断が可能となりました。 肝がんの治療方針を決定する上で重要なのは、慢性肝炎や肝硬変などの背景肝病変を合併している点です。肝障害の程度と癌の状況を把握し、患者さんに最もよい治療法を選択します。

肝がんは、主に消化器内科、消化器外科、放射線科、放射線治療センターや緩和ケアセンターで協力して診療を行っています。 当院における肝がんの診断、治療の現状や特徴、臨床研究、治験についてお示しします。また、当院における肝がん診療に関するデータについてもお示しします。
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肝細胞がんの特徴

肝細胞がんには、背景肝病変を有する、多段階発育、肝動脈から栄養される、多中心性発生する、など他のがんでは見られない特徴があります。これらの特徴は肝細胞がんの診断や治療方針の決定、治療後の経過観察を考える上で非常に重要です。背景肝病変を有することは、ハイリスクグループの設定が容易である一方、肝硬変進展例では、たとえ早期に肝細胞がんが診断されても治療が困難な場合もあります。肝細胞がんの多くは、前がん病変から高分化がん、中~低分化がんへと多段階発育することが知られており、各段階を画像診断で推測することが可能です。肝臓の約70%は門脈から栄養され30%は肝動脈から栄養されるのに対し、進行した肝細胞がん結節は100%肝動脈から栄養されることが知られており、この特徴を、造影剤を用いたCT検査やMRI検査でとらえることにより、肝細胞がんの診断を行っています。また、肝細胞がんは同時性、異時性に多発することが少なくありません。小肝細胞がん数個認められる場合には、主病変からの肝内転移に加え、個々の肝細胞がその場で発がんした多中心性発生を考える必要があります。多中心性発生か肝内転移かで、治療方針が異なる場合も少なくありません。小肝細胞がんの根治的治療後にも、多中心性再発の危険性はあり、治療後の定期観察は必要です。多中心性発生は、B型慢性肝疾患やアルコール性肝障害、NASHに比べ、C型慢性肝疾患で多いことがわかっています。
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診断

1. 腹部超音波検査

超音波を対象物に当てて、その反射を映像化することで 対象物の内部の状態を調査することのでき
る画像検査法です。無侵襲性の検査で、短期間に繰り返し行うことが可能なため、肝がんの早期発見
のために行われるスクリーニング法として第一選択の画像検査です。慢性肝疾患の患者さんには3-6
ヵ月毎に行うことが推奨されています。 近年、造影剤(ソナゾイド)を用いた造影超音波検査の開
発により、病変の血流評価などの質的診断が可能となりました。造影超音波検査は、特に、腎障害や
ペースメーカー、CTやMRIの造影剤アレルギーのある患者さんでは有用な検査です。
 

2. 造影CT検査/MRI検査

CT検査(コンピュータ断層撮影法)は、身体に多方向からX線を照射して得られた情報をコンピュータで処理し身体の断面像を描出する検査です。造影剤を用いたダイナミックCTによる血流評価では、肝がんは特有の造影パターンを示します。
MRI 検査(核磁気共鳴画像法)は磁気の力を利用して身体の断面像などを描出することのできる検査です。肝特異性造影剤(Gd-EOB-DTPA)は、病変の血流評価に加え、肝細胞機能評価が可能で、前がん病変や早期癌の診断に有用です。 尚、CTやMRIの造影検査は強い腎障害のある方や造影剤にアレルギーのある方は基本的に使用できません。
 

3. 動注CT

血管造影下に施行される動注CTは極めて鋭敏な血流評価法です。病変の動脈血流、門脈血流の詳細な評価が可能であり、肝がんの悪性度評価に有用です。血管造影が必要なため入院が必要です。尚、腎障害のある方やCTの造影剤にアレルギーのある方は基本的に使用できません。
 

4. 肝腫瘍生検

各種画像検査でがんが疑われ、確定診断がつかない場合などに行います。エコー観察下に直接、病変を穿刺し組織の一部を採取することにより、病理診断を行います。良性もしくは悪性の鑑別、組織学的な悪性度の評価に有用です。最近では、抗がん剤の感受性評価にも用いられています。
 

5. PET

がん細胞は分裂が盛んで、エネルギー源となるブドウ糖を正常な細胞よりも何倍も取り込むという性質を持っています。PET(陽電子放射断層撮影法)はその性質を利用した検査で、陽電子を放出するブドウ糖に近い成分(FDG)を体内に注射し、体内での薬剤の分布を画像化します。FDGが異常に集まる場所を見つけることで、主に肝がんの遠隔転移の診断に用います。
 

6. 腫瘍マーカー

腫瘍マーカーは、がんの有無(再発の有無)や治療効果判定の補助診断として有用な検査です。肝がんの腫瘍マーカーとして、AFPやPIVKA-II、AFP-L3分画が用いられています。特にAFPとPIVKA-IIは相補的であり、2つの腫瘍マーカーを組み合わせて測定することが重要です。腫瘍マーカーの上昇の程度やパターンにより、がんの悪性度を推測することも可能です。また、腫瘍マーカーが高値を示すがんの治療後の評価にも有用です。
一方、2cm以下の小肝癌では、腫瘍マーカー陽性率は低く、20-50%であることが報告されています。
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治療

治療の概要


肝がんの治療方針は、腫瘍径や腫瘍個数などの腫瘍因子と肝予備能によって決定されます(図1)。肝予備能の評価には主にChild-Pugh分類が用いられ、肝予備能が保たれている場合に(Child-Pugh分類A/B)、がんの治療が行われます。肝切除とラジオ波焼灼療法(RFA)は、根治的に治療できる可能性がもっとも高い治療法です。腫瘍因子として、腫瘍マーカー高値例や、単純結節周囲増殖型や多結節癒合型の肉眼型を呈する肝がんでは、悪性度が高く、微細な脈管侵襲が認められる頻度が高いことが知られており、腫瘍径や腫瘍個数に加え、これらの腫瘍因子も参考に、治療方針を決定します。多発肝がんや脈管侵襲を伴う肝がんでは、血管造影下の治療や全身化学療法が中心となります。病状に応じて肝動脈塞栓術や肝動注化学療法、全身化学療法の選択を行います。遠隔転移が出現した場合は、主に全身化学療法を行います。再発をくりかえす患者さんでは、肝予備能を考慮し、各治療法を駆使した、テーラーメードの集学的治療法が行われます。
患者さんの肝がんの状況や背景肝病変を含めた全身状態に応じて、以下の治療法から治療を選択します。
 

図1 肝がん治療アルゴリズム (肝がん診療ガイドライン2017年補訂版より引用)
 
 


1. 肝切除

肝切除は肝がんに対する最も根治的な治療法の一つです。肝機能が良好で、肝切除率が許容範囲内であれば肝切除の適応となります。肝がんは門脈を介して肝内に転移することから、門脈の支配領域を解剖学的に切除することが望ましいとされています(系統的肝切除)。肝内転移の可能性が低い場合や肝予備能が保たれていない場合には肝部分切除が選択されます。肝予備能を評価し、3D-CTイメージなど術前シミュレーションを取り入れて検討を行い、切除の適応や範囲を決定します。肝切除率が大きい場合には(肝切除率50%以上)、切除する領域の門脈を塞栓して残す肝臓を肥大させてから(門脈塞栓術)、2期的に肝切除を行います。従来の開腹による肝切除では上腹部から右肋部に30~40cmの創が必要で、術後2~3週間の入院となっていました。現在腫瘍径8cm以下や主要な脈管に浸潤のない症例では、腹腔鏡下肝切除を積極的におこなっています(部分切除・区域切除・葉切除)。腹腔鏡下の手術では5mm~1cmの5か所ほどの創で行うため、術中術後の身体的負担が少なく術後入院期間は1週間となっています。現在まで当院では420人の方に腹腔鏡下肝切除をおこない、手術死亡率はゼロと安全に施行できています。進行肝がんで当初手術不能と判断された患者さんでは、消化器内科と連携し肝動注化学療法(New FP療法)にて、がんを縮小させて手術を行う、コンヴァージョン切除も積極的に行っています。
 

2. ラジオ波焼灼療法(RFA)

肝切除とともに、肝がんに対する根治的治療法の一つです。エコーガイド下で肝がんにラジオ波焼灼針を穿刺し、高周波を用いてがん細胞を熱凝固壊死させる方法です。3cm以下3個以下の小肝がんの標準的治療法として確立されています。高度の肝障害やコントロール不能な腹水、出血傾向(高度の血小板低下、出血時間の延長)を認めないことが条件です。経皮的ラジオ波焼灼療法が一般的で、治療中は、局所麻酔と静脈麻酔を併用することにより痛みの軽減を図ります。病変より約3-5mm広く焼灼し、焼灼2-3日後の造影CTにて治療効果を判定します。
2-2.5cm以上のがんでは、より広い焼灼範囲を得るため、肝動脈塞栓術後にRFAを行います。腸管や肝表面、横隔膜に接する病変に対しては、横隔膜損傷や腸管熱傷を避け、確実に焼灼するため、人工胸水や人工腹水を注入し治療を行います。また、通常の超音波検査で病変の描出が不良な場合は造影超音波下やFusion image(超音波装置にCTやMRIの他の画像を読み込み、超音波画像とFusion表示する技術)下に治療を行います。
胆嚢や腸管に近接する肝がんでは、胆嚢穿孔や腸管穿孔の危険を伴うため、腹腔鏡下や小開腹下で行うこともあります。
 

3. 経皮的エタノール注入療法(PEIT)

エコーガイド下で肝がんに針を穿刺し、エタノールを注入してがん細胞を壊死させる方法です。2cm以下が適応です。大多数の症例は計約2-4回のエタノール注入で肝臓がんの壊死が得られます。本邦では20年以上にわたり早期肝がんの標準的治療法として用いられてきましたが、PEITより治療効果の高いラジオ波焼灼療法の普及により、現在では特別な場合にのみ施行します。RFAより肝機能への影響や重篤な合併症の頻度が少ないのが特徴です。
 

4. 肝動注化学塞栓療法(TACE)

TACEは、肝腫瘍に対する抗がん剤の局所への長期貯留と、栄養動脈の遮断による阻血効果による抗腫瘍効果を意図した治療法です。肝硬変の程度がChild-Pugh分類AまたはBで、肝切除やRFAの適応とならない、腫瘍径、腫瘍個数が3cm, 3個を超えるが、高度の肉眼的脈管浸潤が認められない時に適応されます。幅広い症例を対象とする為、施行される頻度が高い治療です。太ももの付け根の動脈から、カテーテルと呼ばれる細い管を腫瘍に到達する血管まで選択的に挿入し、抗がん剤とリピオドールの懸濁液を注入した後、ゼラチンスポンジ細片にて塞栓するconventional TACEが一般的ですが、近年、新たな塞栓物質(DCビーズ、ヘパスフィア、エンボスフィア)が開発され、治療の選択肢が広がりました。また、マイクロカテーテルの進歩により、超選択的に亜区域レベルの塞栓が可能となり、先端バルーン付きマイクロカテーテルによるバルーン閉塞下TACE (B-TACE)などの新たな手法も積極的におこなっています。
 

5. 肝動注化学療法

肝硬変の程度がChild-Pugh分類AまたはBの、門脈や肝静脈に脈管内腫瘍塞栓を合併した症例や、TACEの効果が得られにくい巨大肝がん、両葉多発肝がんなどの肝内進展例で行われる治療です。当科ではリザーバーシステムと呼ばれる薬剤注入用のシステムを作成し、肝動注化学療法を行っています。リザーバーシステムは、太ももの付け根から体内留置用カテーテルを目的とする肝動脈まで挿入し、右大腿部にポートを埋没して作成します。リザーバーシステムを用いることで、肝がんに栄養を供給する肝動脈から、濃度の高い薬剤を繰り返し投与することが容易となり、その結果、少量の抗がん剤でも高い抗腫瘍効果が得られています。繰り返し使用する薬剤として、以前は低用量のシスプラチン、5-FUの併用による治療(Low-dose FP療法)を行っていましたが、近年は微粉末シスプラチンとリピオドールの懸濁液をone shotし、5-FUをシュアフューザーポンプで持続投与する治療(New FP療法)を行うようになり、特に肝硬変の程度がChild-Pugh分類Aの症例において顕著な治療成績の向上が認められています。
 

6. 全身化学療法 

近年の肝がんに対する分子標的治療薬の進歩は目覚ましく、予後延長効果が証明された治療薬が現在、6種類確立し、現在では進行がんの治療戦略には欠かすことのできない薬剤となっています。肝硬変の程度がChild-Pugh分類Aで、肺転移などの肝外転移を認める際や、TACEの効果が不十分であった際に適応とされる治療です。2019年からは免疫チェックポイント阻害剤:アテゾリズマブと、血管新生阻害剤:ベバシズマブの併用療法が第一選択となりました。その他にもレンバチニブ、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、ラムシルマブ、カボザンチニブが使用可能で、それぞれの治療薬の特徴を生かし個々の状態に応じて適切な治療を選択します。
 

7. 放射線療法

肝がんにおいて、放射線感受性は比較的高いにもかかわらず、非癌部への照射の影響による肝硬変の増悪が問題となり用いられることは少ない治療でした。最近では、病変にピンポイントに照射できるようになり、肝がんの重要な治療法の一つとなっています。当院では、2018年にトモセラピーなどの新装置が導入され、肝内病変の癌結節はもちろん、門脈や肝静脈への腫瘍栓に対して積極的に放射線治療を行っています。また、肝がんでは、骨転移やリンパ節転移、肺転移が認められることが多く、放射線治療はこれらの転移病巣に対しても有効です。一方、粒子線治療は、小肝がんであれば根治的に治療可能であることから、合併症のため切除やRFAが困難な場合などに有用です。
 

8. 生体肝移植

腹水や黄疸がみられるような肝硬変進展例(非代償性肝硬変)に小肝がんが合併した場合に行われる治療で、背景肝病変と肝がんを一度に治療することができます。適応となる肝がんは、5cm以下単発または5cm以下5個以下で脈管侵襲や遠隔転移がないかつAFPが500ng/ml以下の場合です。通常、65歳以下が適応です。
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肝がんの再発予防

肝がんは、根治的治療後も肝臓の他部位から新たながんが発生する(多中心性発生)可能性があります。なぜなら、背景肝病変が治癒したわけではないからです。肝がんの多中心性発生の予防するためには、背景肝病変に対する治療が重要です。C型肝炎では、抗ウイルス薬によるウイルス排除が、B型肝炎では核酸アナログ製剤内服が、発がん率を低下させることがわかっています。一方、肝がんの患者さんでは糖尿病の合併が多くみられます。慢性肝疾患の患者さんの糖尿病では、肝発がんの危険因子であるインスリン抵抗性を高頻度に合併していることが明らかとなっています。BCAAや糖尿病薬のメトホルミンはインスリン抵抗性を抑えることにより肝発がんを抑制することが報告されています。コーヒー摂取により肝がん発生率が低下するとの報告もあります。
一方、肝線維化進展例におけるC型肝炎ウイルス排除後の患者さんからの肝がん発症、発がん抑制作用が報告されている核酸アナログ製剤投与中の患者さんからのB型肝炎ウイルス関連肝がん発症が少なからず認められ、定期観察からもれないよう注意すべきと考えられています。
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院内がん登録情報

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担当部署と専門医

部門 担当医 外来診療
消化器内科 黒松 亮子 火曜日午前・午後
新関 敬 水曜日午前・午後
木曜日午後
蒲池 直紀 金曜日午前・午後
下瀬 茂男 金曜日午前・午後
岩本 英希  
城野 智毅 月曜日午後
野田 悠 木曜日午前・午後
中野 聖士 月曜日午前・午後
鈴木 浩之  
消化器外科
(肝胆膵外科)
久下 亨 火曜日午前・午後
水曜日午前・午後
酒井 久宗 水曜日午前・午後
佐藤 寿洋 火曜日午前・午後
後藤 祐一 水曜日午前・午後
福冨 章悟 金曜日午前・午後
新井 相一郎  
赤司 昌謙 火曜日午前・午後
木曜日午前・午後
放射線科
(放射線腫瘍センター)
   
病理学
矢野 博久  
病理部 秋葉 純  

患者さんご紹介の際には「紹介予約センター」をご利用ください。
予約専用フリーダイヤルTEL:0800-200-4897、FAX:0800-200-9489
紹介予約センター直通TEL:0942-27-5673、FAX:0942-31-7897
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