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久留米大病院

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腫瘍センター

膵臓がん

膵臓の部位とはたらき

膵臓は、心窩部とお臍の間で胃の後ろ側にあり、長さ15センチ、厚みが2〜3センチほどの細長い形の臓器です。主な働きは、①外分泌機能: 摂取した炭水化物や脂肪、蛋白質を分解する酵素(消化酵素)を含んだ膵液を腸管内に分泌する機能、②内分泌機能: 血糖値を調節するホルモン(インスリンやグルカゴンなど)を血液中に分泌する機能、といった重要な役割をもっています。
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本邦の膵臓がんの動向

膵臓がんの年間死亡数は、2000年は約1万9000人でしたが、2014年には3万人を越え、2019年で3万6000人であり、2019年の臓器別がん死亡の順位では肺がん・大腸がん・胃がんに次いで第4位(男性4位、女性4位)となっています。高齢男性に多いとされていますが男性は40歳代から、女性は50歳半ばから発生しています。一方、5年相対生存率 (がんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標) が依然として低く、予後不良な消化器がんと言えます。福岡県は10万対の都道府県別年齢調整死亡率が比較的高い地域といえます。(国立がんセンターのがん対策情報センターがん情報サービスホームページより)
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膵臓がん進展の特徴

膵臓がんの多くは、膵管の上皮に存在する腺細胞から発生する“腺がん”です。膵頭部に発生すると、しばしば隣接する胆管へ浸潤し閉塞性黄疸(胆管を閉塞して起こる黄疸)、また胃や十二指腸へ浸潤すると消化管閉塞を来たします。一方、膵体部(特に尾部)に発生した場合、症状を伴わずに増大していることが多くみられます。組織像の特徴として、間質(がん細胞間の支持組織)の線維化を伴うことや、容易にリンパ管や静脈浸潤を来たし、さらには神経浸潤(神経の周囲にがん細胞が進展すること)がみられ、進行するとリンパ節転移や肝転移、腹膜播種を伴います。
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膵臓がんの診断(図1)

膵臓がん診療ガイドライン2019年版における診断アルルゴリズムでは、臨床症状、血清膵酵素 (アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1、など) や腫瘍マーカー (CA19-9、CEA、DUPAN2、Span1、など) 異常、危険因子 (表1)、腹部エコー異常などをターゲットに膵臓がんを疑う場合には、セカンドステップとしてCT (コンピュータ断層撮影)検査あるいはMRI (磁気共鳴画像) 検査、MRCP (磁気共鳴胆菅膵管撮影) 検査、さらにEUS (超音波内視鏡:胃カメラの先端に小さな超音波装置が備わっており消化管から膵臓を観察する内視鏡検査)を行うことを推奨しています。EUSは以前はサードステップの検査でしたが、早期診断に有用であることよりセカンドステップに繰り上げられました。
サードステップとしては、ERCP (内視鏡的逆行性胆管膵管造影: 内視鏡を使って膵管内に造影剤を注入してレントゲン撮影を行う方法)や、その後の治療方針において病理学的根拠が必要と判断された症例に対しては、EUSやERCPに付随して病変の組織や細胞を採取して病理診断(組織診・細胞診)が行われます。さらに病期診断には、必要に応じて、造影MRI・PET-CT(陽電子放射断層撮影)検査・審査腹腔鏡が行われています。
 

 

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膵臓がんの早期診断の現状

昨今の画像診断機器の発展にもかかわらず、未だ膵臓がんの多くは切除不能な状態で発見されています。その背景には、有効な血清学的検索などのスクリーニング方法が未だ確立されていない現状や費用対効果の問題があり、早期診断を困難にさせています。
最近では、以下に示すような危険因子をターゲットとしてMRI/MRCP (CT)のみならずEUSを行うことで、膵臓がんの早期診断を実践している研究が成果を挙げてきています。EUSは、小さな臓器あるいは病変を描出するのに非常に優れており、患者さんにとっては胃カメラ同等の感覚でかつ外来で行うことができます。2007年の膵癌登録事業報告では10mm以下の膵臓がんは全体の0.8%と少数例に留まっていますが、特に10mm以下の膵臓がんの発見にEUSの有用性が示唆されています。また10mm以下の膵臓がんの5年生存率は80%と報告されています。EUSは当院でも以前より積極的に導入してきましたが、今後さらに筑後地区を中心に普及に努めていく所存です。

表1. 膵がんの危険因子
危険因子(リスクファクター) 膵がん発症リスク
膵がんの家族歴 家族性膵がん家系 9倍
散発性膵がん家系 1.7-2.4倍
遺伝性膵がん症候群(原因遺伝子) 遺伝性膵炎(PRSS1) 60-87倍
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(BRACA1/2) 4.1-5.8倍
ポイツ・ジェガーズ症候群(STK11) 132倍
家族性異型多発母斑黒色腫症候群(CDKN2A) 13-22倍
家族性大腸腺腫ポリポーシス(APC) 4.4倍
併存疾患 糖尿病 1.96倍
慢性膵炎 診断から4年以内:14.6倍、5年以降4.8倍
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN) 分枝型で年率1.1-2.5%
肥満 20代でBMI30以上で3.5倍
嗜好  喫煙 1.68倍(喫煙本数と相関)
大量飲酒 3ドリンク/日以上で1.22倍
*1ドリンク=純アルコール量10g
職業 塩素化炭化水素(塩素化パラフィン)暴露 2.21倍

 

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膵臓がんの病期(ステージ)と切除可能性分類

膵臓がんの取り扱い規約の病期分類では、がんの広がり、リンパ節や他の臓器への転移の有無によって、0期、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期に分けられています。0期はがん細胞が上皮内の細胞の中だけに存在しており上皮内がんといわれるものですが、Ⅳ期では膵臓周囲の大事な血管やリンパ節あるいは他の臓器への転移のある状態です。

表2.膵がんの病期(ステージ):膵癌取扱規約 第7版
ⅠA がんの大きさが2センチ以下で膵内に限局している
ⅠB がんの大きさが2センチを超えているが膵内に限局している
ⅡA がんは膵外に進展しているが腹腔動脈や上腸管動脈に及んでいない
ⅡB がんは膵内に、あるいは膵外に進展しているが、腹腔動脈や上腸管動脈に及んでいない。限局領域リンパ節転移がある。
がんは膵外に進展し、腹腔動脈や上腸管動脈に及ぶ。リンパ節転移の有無は問わない。
遠隔臓器へ転移がある

さらに、切除可能性分類によって、他の臓器に転移がないか、重要な血管にがんが広がっていないかなどを総合的に診断し、手術(切除)ができるかを判断します。切除可能性分類は、以下のように分類されています。
「切除可能(R)」:手術をすれば肉眼的にがんを取り切ることができると判断した場合。
「切除境界(BR)」:転移はないものの、がんが重要な血管に広がっている状態で、標準的手術のみでは、がんが体内に残ってしまう可能性が高いとされる場合。
「切除不能(UR)」:手術をしても必ずがんが体内に残ってしまうために、手術はできないと判断した場合。局所進行(UR-LA)と遠隔転移をみる(UR-M)に分けられる。
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膵臓がんの治療の流れ(図2)

膵臓がんの治療は、上述した病期分類と切除可能性分類・患者さんの全身状態(合併症、年齢、など)・患者さんの望み、などを総合的に判断して治療法を選択しています。過去に行われた研究の結果、切除可能膵がんに対しては、手術以外の治療法に比し手術のほうが、明らかに生存率が高いことが示されています。ただし、最近切除可能膵がんを対象とした術前補助化学療法(手術前に化学療法を行うこと)の効果を検証した試験が公表され、術前補助療法が行われた患者さんグループの生存率は、術前補助療法なしで手術を行った患者さんグループより明らかに予後が良好でした。この試験では、一部に切除可能境界膵がんが含まれていたため、さらなる解析が求められていますが、今後は術前化学療法を行うこと推奨される可能性があります。
当院では、毎週膵がん(他の膵疾患を含む)の患者さんについて、内科医・腫瘍内科医・外科医・放射線科医・病理医によるカンファランスを行い、全科共通のプロトコールに従い治療方針を検討しています。

 
 
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膵臓がんの外科的治療

術前の画像診断に基づく病期(ステージ)を決めたのち、手術可能と判断されかつ耐術可能な全身状態の場合に手術が行われます。近年の画像診断の精度が向上してきたにもかかわらず、術中に画像では発見されなかった小さな転移が見つかり、手術が終了することもあります。

膵臓がんの外科的治療には、①膵頭十二指腸切除術、②膵体尾部切除術、③膵全摘術、があり がんの部位によって術式が選択されます。
①膵頭十二指腸切除術:膵頭部領域に発生したがんが適応となります。膵頭部は十二指腸に接し胆管が走行しているため、膵頭部と周囲のリンパ節、さらに十二指腸を含めて切除する方法です。その後、残存した胆管・膵臓(膵管)を腸管につなぎ、さらに胃も腸管につなぐ必要があります(再建術、バイパス術)。
②膵体尾部切除術:膵体部、あるいは膵尾部に発生したがんが適応となります。膵体尾部とその周囲のリンパ節、多くの場合は脾臓も切除します。この術式では、再建術を行う必要がありません。
③膵全摘術:がんが膵頭部から膵体部、あるいは尾部に及ぶ場合、あるいはその逆の場合に適応されます。膵臓全部と十二指腸と胆管を切除し、胆管と腸管をつなぎ、さらに胃を腸管とつなぐ必要があります(再建術、バイパス術)
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膵がんの化学療法

現在膵がんに使用されている薬物には、①ゲムシタビン、②ゲムシタビンとエルロチニブの併用、③S-1 (テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)、④FOLFIRINOX (オキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル/5-FU、ロイコボリンカルシウム併用)、⑤ゲムシタビンとナブパクリタキセルの併用、⑥ゲムシタビンとS-1の併用、⑦イリノテカン塩酸塩水和物 (オニバイド)などが行われています。十分な体力がある場合にはFOLFIRINOX療法、ゲムシタビンとナブパクリタキセル療法が行われます(図3.)。治療による副作用は、日常生活に大きな支障が出ない場合も多くみられ、通院での継続治療が可能です。時に感染症などの重篤な副作用もみられることがあり、注意も必要です。それぞれ、有効性と安全性に多少の違いがあるため、患者さんの希望、ライフスタイル、全身状態(合併症や年齢など)を十分に検討して、選択することが行われています。治療効果がみられなくなった場合には体力次第では他の抗がん剤へ変更します。
ここ数年で上述したような新たなる薬物が膵臓がんの治療に導入されてきており、以前に比し少しずつ効果がみられてきています。しかし、こうした治療は完治に至ることは少ないことも事実であり、病状が進行していった場合には積極的に緩和医療を導入することも重要です。
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膵がん化学療法の流れ(図3)

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ゲノム医療・免疫療法

近年、がん組織に発言している遺伝子異常をみつけて、その遺伝子異常を標的とする分子標的薬によって治療を行うゲノム医療(プレシジョン医療)が注目されています。膵がんでは主に4種類の遺伝子異常が知られていますが、残念ながらこの4種類を標的とする治療薬はまだ開発されていませんが、今後の開発に期待されるところです。
一方、BRCA遺伝子という生殖細胞系列の遺伝子変異を有する膵がんにおいては、新たな治療薬が開発されています(一般名: オラパリブ)。このような遺伝子変異を同時に調べることが可能なパネル検査が2019年より保険診療として行えるようになりました。検査費用が50万円程度と高額であり、治験への道が開ける可能性が10m人に1人以下と稀なため、気軽な検査とは言えませんが、特に家系内に複数の膵がんがいる方や、標準治療の効果が限界に近づいた段階で、検討しても良い方法かもしれません。

近年、PD-1/PD-L1といった免疫機構を阻害する免疫チェックポイント阻害剤が多くのがんで使用されるようになってきましたが、膵がんはPD-L1の発現が低く免疫チェックポイント阻害剤が効きにくいと報告されています。また、MSI(マイクロサテライト不安定性)という癌化を起こしやすい体質を調べる検査で異常がみられた場合には、免疫チェックポイント阻害剤(一般名: ペムプロリズマブ)を使用することは可能ですが、膵がんではMSIの異常頻度が5%以下と稀であります。

現状は、手術療法・化学療法・放射線療法の組み合わせによる集学的治療が主体であるが、それらに加え今後の治療標的となる分子標的薬や免疫療法の更なる開発が期待されています。
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参考文献

1) 国立がんセンターがん対策情報センターがん情報サービスホームページ
 webサイト:    http://ganjoho.jp/public/index.html
2) 「もっと知ってほしい すい臓がん のこと」CancerNet Japan
 webサイト:    http://www.cancernet.jp/publish
3) 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編. 科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2019年版. 金原出版, 2019.
4) 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編. 患者さんのための膵がん診療ガイドライン2019の解説. 金原出版, 2019.
5) 日本膵臓学会編. 膵癌取り扱い規約, 第7版(補訂版). 金原出版, 2020.
6) Egawa S, et al. Japan Pancreatic Cancer Registry; 30th Year Anniversary. Pancreas 2012; 41: 985-992.
7) Hanada K, et al. Diagnostic strategies for early pancreatic cancer. J Gastroenterol 2015; 50: 147-154
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院内がん登録情報

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担当部署と専門医

部門 担当医 外来診療
消化器内科 岡部 義信 木曜日午前・午後
島松 裕 金曜日午前(第2・4週)
寺部 寛哉 水曜日午前
金曜日午前(第5週)
平井 真吾 金曜日午前(第1・3週)
消化器外科
(肝胆膵外科)
久下 亨 水曜日午前・午後
酒井 久宗  
がん集学治療センター 田中 俊光 火曜日午前・午後
放射線科
(放射線腫瘍センター)
淡河 恵津世 木曜日午前・午後
病理部    

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